「あなたの英語は、発音が悪いのではなく、読み方を間違えている」を英語タウンさんで書かせていただいていた

 まだ私が本当に駆け出しの頃、友達に「日本の英語教育の発音指導の部分を変えたい」という思いを話したら、「それならブログでも書いてみたら?」と提案してもらった。それで、とりあえずFC2だったか何かでブログを書き始めました。そしたら、英語タウンさんから声をかけていただき、そこでブログを書かせていただくことになりました。それが2006年頃だったと思います。私も忙しくなり、ブログを更新できなくなり、今はもう無くなってしまいましたが、、、

 最初のタイトルは、「あなたの英語は、発音が悪いのではなく、読み方を間違えている」でした。当時はまだ13母音、24子音のみというスッキリしたものではなく、「英語の母音は実は簡単だ」とは言いつつも、まだ日本語の5母音を組み合わせることで、英語の13母音全てに聞こえる音を作ることができるということは、科学的に証明できていませんでした。(これを証明して学会で発表したのは、2014年になり、論文で発表したのは2018年になります。指導で効果があることを証明した論文は2022年。もっと早いペースでやらないといけませんでしたね。。。)また、プロソディー(子音や母音以外の部分)に関しては、当時の自分の発音がまだあまりちゃんとできておらず、理解もできていなかったので、ほとんど触れていませんでした。英語のプロソディーが理解できるようになったのは、「あな読み2巻」でも述べていますが、中国に留学して中国語のプロソディーを習ってからでした。さらに、実際に日本人に指導するようになったのも、2009年頃だったので、指導経験も無い頃のブログでした。また、当時のSEO対策のことも考え、検索にひっかかりやすそうなキーワードを考えて、タイトルを何度も微妙に変更したりもしていました。(笑)

 それでも嬉しいことにかなり反響はあり、中には「英語系ブログの中で日本一というレベルではなく、ブログの中で日本一です。」というコメントまでいただいたり、ペンネームを「野北信者」にしてくれている方もいました。かなり深く議論していただいた方や、私の成長を見てくれていて「野北先生もかなり勉強されましたねえ」とコメントしていただいたりもしました。

 もちろん反論もあり、例えばmarry, merry, Maryを全て同じ発音と教えることはどうなのか、などです。しかしこういう反論は、発音に関して真剣に考えていただいている方の議論なので、むしろ大歓迎です。どんどんこういう議論をして、盛り上げていきたいと思います。ちなみに私はmarry, merry, Maryの発音を区別して教えることを全面的に否定しているわけではなく、以下の条件を満たせば有りだと思っています。

 まず、marry, merry, Maryは、標準的なイギリス英語では全て違う発音なので、イギリス英語をターゲットにするのなら良いと思います。日本語式の発音というか、カタカナ語(私は日本語の語彙として扱います)では、順にマリー、メリー、メアリーと3つとも違うので、カタカナ発音でそのまま通じるかどうかは別として、3つとも違うということが日本人には受け入れやすいでしょう。逆に、3つとも同じ、又はmerry, Maryが同じということに、違和感がある日本人は多いでしょう。実はアメリカ英語でも、カナダの大学院に行っていた頃の同僚にニューヨークの人がいて、その人の祖母がmarry, merry, Maryを全て区別していたと言っていました。アメリカ英語でも区別する人は区別しているようです。ただその発音は決してカタカナ発音のマリー、メリー、メアリーではなく、順にいわゆるshort a, short e, long aでした。Maryのaがlong aというところが、イギリス英語とも違いますね。

 しかし現在標準と考えられるアメリカ英語なら、merryとMaryは同じ発音です。そしてもしもmarryとmerryの発音を区別したい、または区別する発音を教えたいという場合、まずmarryのaは決してローマ字読みして「ア」と言うのではなく、short a(appleのa)にすることは大前提です。その上で、例えばareaのaはshort e(endのe)、marathonのaはshort aというように、ar+母音の場合に、どの単語でshort aでどの単語でshort eかをしっかり把握しておく必要があります。指導する場合は、そこまで教えられるかどうかです。そこまで理解したうえで、あえてmarryとmerryを区別する地域の方言を指導したいというのなら、それも大いに有りだと思います。一方、「カタカナ発音と違い過ぎて違和感がある」という理由は、無しにしましょう。ただ個人的な意見としては、アメリカ英語でいくなら、学習者が特定の方言にこだわりがあるということ以外は、この3つは全て同じ発音として指導することが一番無難ではないかと、考えています。中央大学の牧野武彦先生がこのことに触れているので、参考までに載せておきます。余談ですがpom=palm、cot=caughtに関しても、私も個人的には、こちらの牧野先生の記事と全く同じ意見です。これに対する説得力のある反対意見には、今の所出会っていませんね。

大学入試センター試験の英語リスニング問題に見る、発音のタイプ(中間報告)

アメリカ発音を見渡す新しい視点~『北米英語地図』

 というような議論は、当時から今に至るまでやっています。(笑)

 というようなことで、「あなたの英語が通じないのは、発音が悪いからではなく、つづりの読み方を間違えているから」の原点は、2006年頃に既に書いていた「あなたの英語は、発音が悪いのではなく、読み方を間違えている」というブログが元になっています。

作者:副代表・野北明嗣

「あなたの英語は、発音が悪いのではなく、読み方を間違えている」を英語タウンさんで書かせていただいていた” に対して6件のコメントがあります。

  1. 設楽優子 より:

     童謡の中で、羊を飼ったり学校に羊と一緒に登校したりしている、Maryさん(イギリス人で、中高年のオックスフォード在住の女性母語話者)が自分の名前の発音について、日本人女性に教えたことをご紹介します。彼女(Maryさん)は、自分の名前を最初の音節を強く発音しますが、その音節の中のaの部分の母音を、「spa, carなどと同じ母音で発音してね、そういう音だから。」という具合に説明するそうです。この話は、私の高校の同学年だった友人(日本人)から聞いた話で、彼女とMaryさんは、彼女がオックスフォードに滞在していたときの友人同志だそうです。私の友人は、中学か高校の生徒だった時に、ネイティブの先生から個人レッスンで英語を習っていたのですが、ピアノも本格的にやって、音大で声楽も勉強して、音感に優れた人なので、私に話してくれた発音の話には信ぴょう性があると思います。このイギリスのMaryさんは、「squareの母音+r」で自分の名前を発音しているのではなく、「carの母音+r」を使っているので、フランス人のMarieさんと同じような音を語強勢パターンを変えて発音しているのではないかと思います。
     Merriam-Webster社の辞書の発音担当者のガンターさんという方は、博論でrの前の母音について調べたのですが、「普通のアメリカ人は、この位置(rの前)の母音を、違う位置では区別されているどの母音を使って、自分が発音しているのか、と問われても、わからないと思う」と私に話してくれたことがあります。2000年10月に私が2週間ほど同社に通わせていただいたときに聞いた話です。イギリスでもsquareなどの発音は伝統的な二重母音から単純長母音に変化している最中とのことをきいています。アメリカ人のrの前の母音は、もっとずっと前から、変化が一般的で、定着している気がします。が、単音節語と、2音節語と、もっと多音節な語とが同じ速さで変化を完了済みかどうかは、私はまだわからず、関心があります。

    1. 設楽先生

      返信が大変遅くなってしまって、すみません。コメントを見落としていました。
      非常に興味深い話ですね!こちらのMaryさんは、squareの母音ではなく、carの母音なのですね!

      カナダ鳥のメロンさんと、アメリカ鳥のプラムさんは、二人ともMary-marry-merry mergerが既に起こっているので、レッスン31でお話ししているように、ar+母音字(母音扱いのyを含む)のaは、ショートEになっています。

      >イギリスでもsquareなどの発音は伝統的な二重母音から単純長母音に変化している最中とのことをきいています。

      [skwɛː]みたいな感じですよね。それでもショートE(DRESS母音)とは音韻的な対立があるのですよね?

      北米では完全にショートEで、牧野先生は、たしかar+母音字のaはショートEが主流だという話をしていたと思います。

      >「普通のアメリカ人は、この位置(rの前)の母音を、違う位置では区別されているどの母音を使って、自分が発音しているのか、と問われても、わからないと思う」

      でも、これが面白いですね。英語ネイティブは母音音素の感覚はあいまいで、もしかしたらRの前では話者の頭の中では完全にショートEではないのかもしれませんね。

      実はメロンさんは音声学者にもかかわらず、英語の音素の認識が微妙っぽい気もします。というのも、僕の13母音表をsimplified inventoryみたいなことを言っていたことがあります。メロンさんの中では母音は13個じゃないのかもしれません。(tacoのaのように外来語だけに出てくる音もありますが、「音素」の地位ではないようで、Bobergはextraphonemicと言ってます。だから僕のレッスンには入れていません。そういう意味では確かにsimplifiedでしょう。)
      もしかしたら音韻論者ではなく音声学者なので、一般ネイティブが同じ音だと認識している異音も、違う音だと認識している可能性もありますが。日本人音声学者が「はんい」と「こんぼ」の「ん」を違う音だと認識しているように。

      あとは、rhymingで考えると、merryとrhymeするのはおそらくcherry, carry, very, necessary, dictionaryのようにrもセットで考えてしまうと思うので、r以外の子音(例えばany)だとちょっとピンとこないのでしょうかね。

      いずれにしても、母語話者がハッキリ「英語の母音はいくつ」と認識していないのが、英語教育で体系的な母音指導をしていない理由でしょう。

  2. 設楽優子 より:

    お応えとそのお知らせメールをありがとうございました。最近、YouTubeのゆる言語学ラジオで、川原繁人先生が「文字も音韻に影響しているらしい」とおっしゃっていました。例として挙げられたのは、ハッパ、パッパ、ハンパに近いような無意味語の日本語の単語で、連濁に観察されるlicensingのことでした。「p, b, d, g」がnatural clusterを成しえないのに、そうであるかのようにふるまうから、「パ、バ、ダ、ガ」の半濁点と濁点が何かの制約に対して同じ振る舞いをする、と言っていました。よくは分からないまま放置したので、野北先生のご意見を伺いたいと思いました。ゆる言語学ラジオの最近の動画です。ご覧になりました?

    1. 設楽先生、コメントありがとうございます。
      ゆる言語学ラジオ、今まで聞いたことなかったので、聞いてみます。
      川原先生は学会や勉強会でのコメントもキレッキレで、すごく頭がよさそうな方ですよね。英語もうまいし。

      > 「p, b, d, g」がnatural classを成しえないのに、そうであるかのようにふるまうから、

      これは面白いですね!なんでですかね。t, kは振る舞いが違うんですかね?
      歴史的な名残なんでしょうか。それとも今でも生産的にp, b, d, gが同じような振る舞いをしているんでしょうか?
      母語なのに、個々の音素の振る舞いまでは自分で意識できていないというのも、面白いです。

  3. 設楽優子 より:

    natural classを間違えて書いてしまいました。すみません。

  4. natural clusterと聞いても、「あれ?clusterだっけ?」と思いつつも、意味はわかったので大丈夫です。そうでしたね。正しくはnatural classでしたね。私も正しい言い方は忘れてました。(笑)

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