大河ドラマ、光る君へ(24)で中国語学習中のまひろがカタカナを振っていた件
2024年6月16日に放送した大河ドラマ、光る君へ(24)「忘れえぬ人」の中で、個人的に非常に興味深いシーンがありました。
それは、中国語を勉強中のまひろが、カタカナで読み方を書いていたシーンです。日本人(以前の私も含む)が、英語の読み方にカタカナを振っているのとかぶりますね。
この時代には、当然ピン音も注音もなく、またこの時の宗の国の人たちの発音体系は、おそらく後期の中古音に近いものだったのではないでしょうか。(間違っていたらすみません。)だとすると、閉鎖音系は今のような有気音、無気音(例、phとp)の2つの対立ではなく、今の上海語のように有声音、無気音、有気音(例、bとpとph)のような感じの3つの対立があったようです。
そして当然、まひろがしゃべっていた当時の京都の日本語の発音も、今とは違っていました。母音は既に8母音(諸説あり)ではなく、5母音になっていたようです。ピッチアクセントの弁別は、今の標準語と比べてかなり種類が多く、音程の弁別がかなり重要だったと思われます。(私の研究分野とは異なりますが、最近平子達也先生という方の日本語のピッチアクセントの歴史に関する論文を楽しんで読んでいます。)
当時の日本人が、外国語の発音を学ぶ時に、どのようにしていたかは興味深いですね。宗の国の言葉に関しては、当時の中古音を示す表音文字もあったようですが、それがどれだけ一般に広まっていたか、そしてそれが宗の国の言葉を第二言語として学ぶ外国人に普及していたかは、気になる所です。まひろのようにカタカナ発音でなんとか強引にコミュニケーションをとっていた人が多かったのかもしれません。
そのような学習環境だとしたら、まひろが、「大人」dàrén(おとな)、のことを「打人」dǎrén (人を殴る)と言ってしまったような、私を含む日本人中国語学習者にあるあるの発音ミスは、当時はもっと頻繁にあったことでしょう。
しかし、おそらく語学教育も当時より進んでいるであろう今は、中国語や英語のように、オフィシャルな表音文字のある言語を学ぶ時は、絶対にカタカナで学んではいけません!言語のセンスがある人は、絶対にやりません。なぜならカタカナを使うということは、日本語の発音体系にあてはめている、つまり「日本語耳」だということだからです。
今の中国語にはピン音という素晴らしいツールがあるので、それを使えばすむことです。
英語に関しては、そのような便利なツールがないから、カタカナは悪いとわかっていてもみんなカタカナに頼るしかありません。でもフォニックスを学んでいる人は、読み通りの綴りを書くことができます。絶対にやりましょう。(発音記号は、こと日本の英語教育の現状を考えると、音韻表記にはおすすめできません。誤解のないように言っておくと、発音記号そのものが悪いのではなく、日本の英語教育での発音記号の使われ方が悪いということです。)
たとえば、アメリカ人やカナダ人の日本語学習者で初級レベルの人たちが、日本語の発音を英語のつづりを使って書いたり、韓国人の日本語学習者の初級レベルの人たちが、日本語の発音をハングルで書いてるのを見ることがありますが、これもできるだけ早くやめないといけません。日本語を学ぶなら、母語の発音体系ではなく、日本語の発音体系に一刻も早く慣れる必要があります。
ではオフィシャルな表音文字を持たない言語(例、レモンスクール代表の母語、ヌンタン語)を学ぶ時はどうするか?私も3年後からヌンタン語を真面目に学ぶ予定なので、3年後にお話しします。