英語の教科書から、ヘボン式ローマ字表を無くすために1
よくローマ字の表が、英語の教科書にこのような感じで載っているのを見ます。
ヘボン式(し、ち、つ、ふ→shi, chi, tsu, fu)と訓令式(si, ti, tu, hu)の両方が書かれていますね。

●英語の発音指導に熱心な先生方は、満場一致でローマ字を英語の教科書に載せることに反対
結論から言うと、ローマ字を英語の時間に扱うのは、非常にまずいと思います。
英語発音技能検定EP-Proという試験の特級合格者のミーティングで、英語の教科書にヘボン式ローマ字票が載ってることに関して、満場一致で「それはまずい」という話になりました。教科書に載っているばかりか、ローマ字の書き方を英語の授業で教える(例えば納豆をnattōと綴ると教えて、英語の時間にそれをテストする、というケースもある)という話にもなり、これに対しある先生は「鳥肌が立った」とさえ言うほどでした。
英語発音技能検定EP-Proの産みの親でもある菅沼直子先生や、柴田武史先生といった、日本人の中では英語の発音や発音指導に関してトップレベルであろうという先生方が、満場一致で英語の教科書にローマ字を載せることはおかしいという意見なので、これは耳を傾けてみて損はないかなと思います。特に発音が上手くなりたい人は、既に成功している方達の真似をするのは大事でしょう。
「いやいや、ヘボン式ローマ字は英語に近いから、英語教育のためにローマ字をやるべきだ。」とか、「ローマ字は国語の時間じゃなくて、英語の時間に教えた方がいい。ローマ字指導は英語教員に任せてほしい。」という意見もあると思います。確かにローマ字が英語に限らず外国語学習に役立つ面はあります。それは次の記事でお話しするので、そちらも見て下さい。→ローマ字を学ぶメリット
しかし、ローマ字を英語の教科書に載せること、ローマ字を英語の時間に教えることに関してはどうなのか?是非読んでいただければ幸いです。
●ローマ字は、何のためにあるのか?
まず普通に考えると、ヘボン式だろうが訓令式だろうが、ローマ字は国語(日本語)の時間に教えるもので、英語などの外国語の授業に持ち込むものではない、ということでです。というのも、ヘボン式ローマ字は、日本語の仮名からラテン文字(ローマンアルファベット)への転写だからです。日本語を表記するために、英語とイタリア語を参考にして作られたものです。
結局のところ、「ヘボン式も訓令式も国語の時間に指導すべき」という問題を理解していただくには、ローマ字の目的などの話をするよりも、英語のフォニックス(音とつづりの対応)と英語の音の一覧などの発音体系をしっかり理解していただくことにつきるでしょう。英語のフォニックスと発音体系を知っている方ならば、英語の綴りとヘボン式ローマ字が全く別物であり、ヘボン式ローマ字をやったところで英語の綴りが正しく読めるようになるわけでは全くないことを知っているので、わざわざ貴重な時間を割いて英語の時間に英語と無関係なものを教えようとは思わないものです。
●なぜ英語の先生方は、ローマ字を英語の時間に教えたいのか
にも関わらず、なぜ英語の時間にローマ字をやる必要があるのかというと、やはり英語の先生方は、名前をローマ字で書かせたいからでしょう。確かに、ローマ字で自分の名前をちゃんと書けない子は珍しくありません。
しかし、英語の時間では、ローマ字で自分の名前を書けなくていいと私は思います。
英語の授業で、日本語の文字を書けなくても問題ないと思います。
●英語の時間に名前をローマ字で書ける必要はない。英語式の綴りと発音を教えましょう。
まず英語以外の言語で考えてみると、わかると思います。
★スペイン語の例
例えば、私の名前は「アキ」だとスペイン語ネイティブに言ったら、
Aqui
と綴ってくれました。これはかっこいいと思いました。
さらにスペイン語ではhの文字はサイレントなので(例 ¡Hola!)、hを加えても発音は変わらないので、私はちょっと調子に乗って自分の名前を、こう綴ることにしました。
Haqui
スペイン語を習う時にやりたいことは、ローマ字のAkiではなく、こういうことではないでしょうか?
★中国語の例
中国語の漢字も同様です。中国語では以下のように漢字の形が違います。
「愛」→ [爱]
「豊田」→ [丰田]
中国の授業では、「愛」や「豊田」を書けなくても、全く問題ありません。中国語の時間に習いたいことは、爱や丰田です。
★英語の例
英語も同様です。
例えば英語ネイティブに日本語の「アキ」に近い発音で呼んでもらいたいなら、
Ucky
とつづればいいのです。実際に検証済みです。
英語ではu (short u)が日本語のアに一番近い発音です。英語のaは/æ/、アメリカ英語だと(地域差が結構ありますが)実際の発音はエア([eə, æə])のような二重母音で、日本語のアの2倍くらいの長さがあります。
また、英語のは「っ」の音はありません。Uckyのcは、決して「っ」ではなく、その前のUの読み方を指定するためにあります。このcを入れなかったら、Uがアルファベット読み(long u)で読まれてしまいました。
英語の授業で習いたいことは、こういうことではないでしょうか?ヘボン式ローマ字ではないはずです。
もう一つ例をあげると、
「せいすけ」という名前は、日本語ではSeisukeまたはSēsuke(訓令式はSêsuke)ですが、
英語ネイティブに、日本語の「せいすけ」に近い発音で読んでもらうには、以下のような綴りが良いでしょう。
Sayskay
この「す」は無声化し、英語ネイティブには母音が聞こえないため、1拍(1 syllable)とは認識されないので、英語ではskayとなり、この方が音声的には日本語の「すけ」の発音に近くなります。
「スケイじゃなくてスケにしたい」と思うかもしれませんが、英語は基本的に単語が/e/で終わらないので(mehなどのスラングなどにあるので、全くないわけではないが)、/eɪ/で終わらせないといけません。
英語の授業で習いたいことは、↑こういうことではないでしょうか?
英語の発音体系で、英語のフォニックスのルールを使って、自分の英語式の名前を考えるということです。
日本語の授業では、外国人の生徒の名前は、全て日本人が発音しやすいカタカナに変換されます。
例) Felita → フェリータ Martina → マルチナ
中国語の授業でも、外国人の生徒の名前は、全て中国人が発音しやすい漢字に変換されます。
例) Felita → 菲丽 Martina → 马丁娜
参照) Ђоковић → Djokovic, ジョコビッチ, 德约科维奇
Nadal → ナダル, 纳达尔 Federer → フェデラー, 费德勒
同様に、英語では、日本語を知らない英語ネイティブに発音しやすい自分のニックネームを使うのは、本来はむしろあたりまえのことなのです。
●現実に、英語の授業でこのようなことの指導は可能か?
ただし、現実を考えると、フォニックスという言葉を聞いたことがある人は増えてはいるが、多くの場合はAからZまでの読み方をアブクド読み(エアバカダ読み)で習うだけ、自分の名前などまで実際に応用できる人たちは、あまりいません。
だから、「こういうことを授業でやりましょう」というと、先生方からは「そんなことできません!教えられません!」と嫌がられるでしょう(経験済み)。先生としては当然です。自分ができないこと、習ったことがないことを、教えられるわけはないですから。(私も自分が教えられないことは、いろんな言い訳をして避けたいですから。😅)
そこで対策として、ネイティブのALTの先生、外国語指導助手の先生がいらっしゃれば、その先生に、自分の名前の最初のひらがな2文字くらいを発音して、英語でどう綴りますか?と聞いてみるという方法だったら、なんとか浸透するのではないかと思います。ALTの先生方には、あたりまえのようにできることなので、わりと協力的だというイメージです。
ローマ字を教えるのに時間を費やす代わりに、児童/生徒1人ずつの名前のつづりを、ネイティブのALTの先生にチェックしてもらう方が、楽しいのではないでしょうか。
●英語の時間に訓令式ローマ字を使ってもいい
英語の時間に名前を訓令式に綴るのは問題があるという意見もあるでしょう。
たとえば、「さち」さんという名前なら、以下のうち後者は問題があるのではないかと。
Sachi
Sati
しかし、フォニックスや英語の発音体系に詳しい方なら、
どのみち英語ネイティブは日本語の発音ができず、ローマ字のルールも知らないので、
ローマ字を正しく読めないのだから、
ヘボン式でも訓令式でもどちらでもいい、と考えるでしょう。
英語の授業としてはそこは大した問題ではありません。
英語のフォニックスを理解しているか、そこが大きな問題ですから。
●英語を、ヘボン式ローマ字で習った通りに読むと
では、せっかく英語の時間に習ったヘボン式ローマ字のルール通りに、英語を読んでみると、
I need to go to the station and take the bus.
イネエドトゴ トトヘスタティオン アンド タケトヘブス
※needのd、theのt、stationとbusのsの後には母音字がなく、ローマ字ではそういうことはないので、
母音を入れました。theは「トヘ」でしょう。
でもきっと英語の時間に習いたいことは、こういうことではないでしょう。
英語の時間には、やはり英語の正しい発音と、各音に対応するつづり(フォニックス)を習いたいものです。
なかなか英語の発音体系とフォニックスを教えられる人がおらず、
そんなにすぐに指導者を増やせるならとっくにやっているので、
指導者を増やすにはまだまだ時間はかかります。
そこでまずは、以下のことならすぐにできるのではないでしょうか?
★ 英語の教科書からヘボン式ローマ字表を削除する
★英語の時間にローマ字は教えない
文科省の方達にお願いして、すぐにでも変えていただきたいと思います。
同じことを考えている方、是非ご協力をお願いします。
次回→ローマ字を学ぶメリット
こちらの動画でもっと詳しく説明しているので、よかったらご覧ください。