HUNTER×HUNTERカキン語の母音3混合音2混合音は音声学的(音声付き!)に発音を検証!シマヌvs.シマノ

ハンターハンターが久々に再開しました。第412話にカキン語の発音の話が出てきましたが、

音声学的にどういう発音なのか、考えてみると面白いでしょう。

まず、第412話のスクリーンショットを見てみましょう。

クラピカが、シマヌの発音を間違えていますが、それを直されても違いが聞き取れないシーンです。

ビルによれば、

「クラピカにはカキン語の母音3混合音と2混合音の使い分けや聴き分けは多分無理だと思うぞ」

とのことです。

「英語のLとRの使い分けや聞き分けは多分無理だと思うぞ」

「日本語のツとチュの使い分けや聞き分けは多分無理だと思うぞ」

というのと、同じことですね。母語にない区別が発音しわけられない、聞き分けられないということです。

 

ただ、母音の3混合音、2混合音という単語は、音声学、音韻論では聞いたことがないので、

冨樫先生が作った単語でしょうが、元日本音韻論学会で理事をしており、

大学で音声学系の科目を担当している身としては、

どんな音か気になるところです。

そこで、ハンターハンターの英語訳のスクリーンショットを見てみましょう。

It’s probably impossible for Kurapika to distinguish or pronounce the difference between the 3-vowel blends and 2-vowel blends of the Kakin language.

とのことです。

おそらく、シマヌだかシマノだかの「ヌ」や「ノ」は1音節(音節とは何か)だと思われますが、

こうなると、3混合音、2混合音がどんなものか可能性としては、以下の二つです。

 

①音声学でいう三重母音、二重母音

②書く時に3文字、2文字で書くもの(三重字、二重字)だが、音的に三重母音、二重母音とは限らない。

 

英語では、consonant blendsと呼ばれるものがありますが、例えばplayのplとか、tryのtrなど、

複数の子音がくっついてるものです。

日本語の「きゃ」(kya)とかのkyみたいなものです。2つの子音をほぼ同時に発音するものです。

 

①音声学でいう三重母音(triphthong)、二重母音(diphthong)だとすると、まず二重母音というのは、

日本語の標準語で強いて言えば、「や」は、実際にはyとaの2つの音の組み合わせですが、

日本人には1つの音として認識され、普通yとaを切り離して発音することはありません。

こういうのが二重母音です。

一方、「あい」などは、明確に「あ+い」と分けられるので、単なる2つの母音です。

標準語では「あい」は二重母音ではありません。

※最近の日本語音声学・音韻論では「あい」等を二重母音と扱うのが主流ですが、確かに一部の方言ではそうかもしれませんが、標準語では違うということを、私は今年の論文で主張しています。「日本語にも二重母音がほしい!」と無いものねだりをしたくなる気持ちは非常にわかるのですが、「二重母音とは何なのか」という原点に一度帰らなければ、議論がどんどんおかしくなっていってしまいます。

 

実は英語の、例えばzooなどの/uː/の母音は、[uw]という二重母音なのです。

ネイティブには1つの母音という認識ですが、音色が途中で変わります。

さらに言えば、goodなどの/ʊ/の母音も、音声的には[ʊə]のように二重母音がかっています。

schwa off-glideと言います。

このように、ネイティブが1つの音だと思っているものが、実は二重母音ということは珍しくありません。

 

そして三重母音は、中国語のuaiとかueiなどですね。

英語で強いて言えば、wowとかwayなどがそれに近いです。

これらもネイティブにとっては一つの音ですが、実際には音色が3つ変わるような感じのものです。

 

日本語でも、奈良時代頃には8母音あったとする説が有力で、

オの母音には、甲類と乙類という2種類があったとされており、

乙類と呼ばれる方は[əo]や[uo]のような二重母音だったのではないか?

という仮説があります。

※当時の音声の録音がないので、あくまで仮説の域を出ませんが。

しかし平安時代になってくると、二つのオの母音を区別しなくなってきたと考えられています。

 

クラピカが発音を間違えたヌだかノだかの発音は、

この奈良時代のオ段の甲類乙類の区別のようなイメージかもしれません。

 

また、おそらくノンネイティブのクラピカは単純な方しか発音できないので、

二重母音の方で発音したのかもしれません。

一方ネイティブのシマヌは、より発音に労力のかかる三重母音の方を発音してたのかもしれません。

例えば、[ou]と[uou]みたいな区別かもしれません。

 

また、クラピカが必死に唇を突き出していることから、「円唇母音」ということが伺えますね。

円唇母音とは何なのか?意外に奥が深いので、

6種類の唇の動きが可能!」というこちらのレモンスクールの動画をご覧下さい。

 

 

もう一つ②書く時に3文字、2文字で書くもの(三重字 trigraph、二重字digraph)だが、

音的に三重母音、二重母音とは限らない。

という可能性もあります。

英語のconsonant blendというのは音声学用語ではなく、フォニックス(文字)の用語だと思います。

音声学では、consonant clusterと言います。日本語だと二重子音、三重子音とも言ったりします。

 

母音の3混合音、2混合音の英語訳the 3-vowel blends and 2-vowel blendsというのは、

発音ではなく、文字の話かもしれません。

 

例えば、英語のshipのshは、2文字ですが1つの子音音素/ʃ/を表しています。

同様に、seaなどのeaは、2文字ですが1つの母音音素/iː/に対応します。

さらに言えば、throughのoughは4文字ですが、1つの母音音素/uː/に対応します。

 

片方はカキン語の文字で3文字で書き表す母音、

もう片方はカキン語の文字で2文字で書き表す母音、かもしれません。

音的には、単母音(母音の途中で音色があまり変わらない)の可能性もあります。

 

「ヌ」を「ノ」と聞き間違えるのは、日本人にとっては実は珍しいことではありません。

日本語のウは、唇を突き出しますが、唇で狭めを作りません。(↑の動画参照。)

また、日本語のウは舌の位置がどちらかというと真ん中から前よりで、

よりエなどに近い位置になります。

発音記号で書くと[ʉ]が適当だと思います。

※発音記号では、唇の狭めを表すことができないという弱点があります。

 

なので、他の言語の、唇をより狭める/u/や、より舌の位置が後ろの/u/を聞くと、

日本人の耳には、/o/のように聞こえることがあります。

クラピカの発音、聞き取りミスは、このようなことではないかと思われます。

 

カキン語の母音3混合音、2混合音とは

カキン語には、より唇の狭めを作り後舌のウと、

日本語のようなウの2種類の円唇母音があり、

(おそらく南通語の「住」と「坐」の区別のようなもの)

クラピカにはその違いが聞き取れないので、

前者の音を「オ」だと思ってしまった。

片方はカキン語の文字では3文字、もう片方は2文字で書き表す。

 

この可能性が高いかな、と思われます。

いかがでしょうか?

もし、二重母音、三重母音なら、「ヌォ」などとカタカナである程度書く方法がありますが、

それをやっていないから、二重母音、三重母音の可能性は低い気がします。

ただ、どちらもほぼ単母音だとして、

どっちが3混合音でどっちが2混合音かはわかりませんが、

おそらくシマヌ本人の発音はクラピカが発音できないということで、より複雑で、

言語学用語を使うとより有標な音だと思われるので、

本来のシマヌのヌの方が、3混合音クラピカの発音が2混合音だと思われます。

 

ではあくまで仮説ですが、

普通の「ヌ」、シマヌの「ヌ」、「ノ」の順番で発音してみました。

 

今度は「シマヌ」と、クラピカのまちがった「シマノ」です。

 

 

こんな感じではないかと、勝手に想像しています。

しかしあの優秀で強気なクラピカが、発音練習に苦戦してるシーンは、ほほえましいですね!

 

オイト王妃が発音した「ワブル」の「ブ」の中性音、女音、男音も考察してます。

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