僕が、某自治体の教育委員会の方達に、「あなたの英語が通じないのは、発音が悪いからではなく、読み方を間違えているから」の内容を小学校の英語教育に取り入れて、なんとか子供達に英語の音とつづりの基礎固めをできないかと、相談していました。最初に基礎を固めておけば、ここまで通じないと悩む日本人は少なくなるし、中国人やロシア人など他の国の英語学習者達から、「日本人の英語は何を言ってるかわからない」と馬鹿にされることも少なると思うからです。逆に土台を固めずに、いくら色々積み上げても、結局遠回りになってしまうことは、どの分野でも同じだからです。

 僕のレッスン動画の試作品を、教育委員会の方達に見ていただきました。教育委員会の方達は元中学の英語教員だったということもあり、僕は絶対に「これは素晴らしい!是非取り入れよう!」と言ってもらえるという自信がありました。というのも、僕のレッスン内容は、僕自身がアメリカ人から習って人生で一番感動したことではないかと思うものでもあるからです。それをもっとノンネイティブに分かり易く伝えられないかと、音声学を基礎から勉強し、仕上がったものがこのレッスンだからです。日本人のみならず、韓国人や中国人やインドネシア人に教えても、ものすごく感動してもらえました。だから絶対に教育委員会の方達も感動してくれると思っていました。

 ところが、妙に教育委員会の方達の反応が悪かったのです!正直この人生を賭けたと言っても過言ではない自信作が不評だったのは、ショックでした。そこで何が気に入っていただけなかったのか聞いてみると、非常に興味深い答えが返ってきました。

 「この教材で子供達が正しい英語の発音を身につけてしまうと、日本人英語教員の発音が間違っていたことが子供達にバレてしまう。それは教員には耐えられない。」ということでした。これを聞くと、「英語教員のくせに何言ってるんだ!」とあきれるかもしれません。しかし、僕も同じ日本人英語教員であるため、この気持ちは非常によくわかるのです!正直に話していただいた教育委員会の方達に感謝しています。つまり、自分が味わった感動をもっとシェアしたいという思いで作った教材のせいで、不幸になってしまう人もいるということだったのです。どんなに学習者が喜んでくれても、教員がuncomfortableだと感じる教材ではいけないし、世に広まることは無いと思いました。生徒も教員も、どちらもハッピーになれる方法を見つけなければいけません!

 例えば、元中学英語教員の教育委員会の方が、アメリカ人の発音したsitを聞いた時、「これを聞いても何の単語だかわからないんです」と白状してくれました。やはりネックになってたのは、英語の i の発音が、決して「イ」ではないということを知らなかったことでしょう。「英語教員なんだから、そのくらい聞き取れるようにしろよ!」と思うかもしれません。しかし、英語は必修科目なので、英語の教員に数を確保しなければいけませんが、みんながみんな留学などの機会に恵まれていて、生の英語に触れる機会があったわけではありません。僕なんかは高校生の時に親がアメリカに行かせてくれて、ラッキーでした。

 つまり教員は教員で「教員のくせにと言うなら、ちゃんと研修で正しい発音を教えてくれよ!」と言いたいところなのです。しかし、教員の研修制度を充実させると言っても、残念ながら現実はそう簡単なことではありません。まず、日本にはなかなか体系的に英語の発音を教えられる人もいません。英語ネイティブだからと言って、発音を外国人に教えられるというわけではないのは、日本人だからと言って、日本語の発音をわかりやすく外国人に教えられるわけではないことを考えれば、よくわかると思います。余談ですが、実は日本語教育も、発音指導の問題を抱えています。中国語の発音指導ほど、体系的でマニュアル化された指導法は、英語や日本語にはないのです。

 「英語教員なんだから、自分で発音練習してほしい」と思う人もいるかもしれません。しかし、教員はただ授業をやるだけではなく、授業以外の業務もたくさんあり、なかなか時間が取れないものです。というか、英語教員だけでなく、社会人になると、多くの人は、自分の技術を磨く時間というのは、かなり限られてくるものですよね。まして家庭を持っている人は、子育てなどでも時間を取られてしまいます。

 

日本人英語教員も生徒も同じノンネイティブ

 そこでまずは、日本人英語教員達に、「自分もノンネイティブで、君達と同じように英語学習者なんだ。ただ英語歴が君たちより長い先輩というだけ。」というように、プライドを捨てられるようになると言いと思います。僕なんかは、授業で「自分もノンネイティブだから」と言って、質問されてわからなかったら「ネイティブに聞いてみる」と言っていますが。(笑)こうすれば自分の気持ちが楽なので。つまり「逃げ」です。

 しかし、教育委員会の方の話によると、「中学の英語教員で知ってる人たちの中では、そうやってプライドを捨てられる人は、10人に1人くらいだろう。」ということでした。このプライドを捨てられない気持ちは、必ずしも教員に全ての原因があるわけではなく、生徒の目が厳しいということも、あるのではないかと思います。僕も学生だった頃は、いつも先生から怒られてビクビクしていたので、何か先生の弱点を見つけると嬉しい気持ちになっていたものです。生徒にとっては「あの英語の先生の発音は間違ってる!」というのは、嬉しいニュースでもあるわけです。(笑)

 やはり理想としては、教員と生徒の人間関係がある程度できて、先生もノンネイティブスピーカーであり、同じ英語学習者であることを、生徒達も理解してくれることだと思います。ただ教員の方が学習歴の長い先輩だというだけの話です。教員も生徒も同じノンネイティブとして、ある意味一緒に学んでいく、くらいの雰囲気ができればいいと思います。と言ってもあくまでコーチと選手のように、選手が主役になれるように。

 このように、日本の英語教育に、発音指導をしっかり定着させていくには、生徒だけでなく教員もハッピーになれる環境を作っていくことが、必要不可欠だと感じています。