最近は、「日本人は、ジャパニーズイングリッシュでいい」という話を聞きますが、特にこの概念を習った大学生とか大学院生が、これを「日本人にしか通じないカタカナ英語でいい。と解釈してしまっている人がいる印象を受けますが、本当にそうでしょうか?

 もう一度世界の英語変種の、Kachru’s Three Circles of Englishの復習をしましょう。

The Inner Circle (内円): イギリス英語、アメリカ英語、カナダ英語、オーストラリア英語など、いわゆる元々のネイティブスピーカーの英語。

The Outer Circle (外円): インド英語、ナイジェリア英語、シンガポール英語など、かつてイギリスの植民地で、国内で公用語としての地位がある英語。リンガフランカ(母語が異なる人同士で話す時の共通語)として使われることが多い。

The Expanding Circle (拡大円): 日本、中国、ロシア、オランダなど、英語が歴史的に関わっておらず、公用語としても使われていない地域の人たちの英語。国外の人とコミュニケーションをとるために英語が使われる。

 

 ①②の内円、外円の人たちは、自分達のコミュニティー内で英語を使っているので、そのコミュニティー内でしか通じない英語であっても、問題はありません。しかし、日本を含む③の拡大円の国々の人たちは、自分達のコミュニティーでは英語が公用語ではないので、英語を使う理由は、自分達のコミュニティー外の人たちとコミュニケーションを取ることです。日本人同士なら、日本語でコミュニケーションをとるのだから、日本人にしか通じない英語をわざわざ使う必要はありません。(ただし英語の練習のために日本人同士で英語をしゃべるのは、大いにやるべきだと思います。)

 しかしもし、日本人は日本人にしか通じない英語、中国人は中国人にしか通じない英語、フランス人はフランス人にしか通じない英語、メキシコ人はメキシコ人にしか通じない英語、エジプト人はエジプト人にしか通じない英語、をしゃべっていたら、以下の図のように、コミュニケーションがとれなくなってしまいます。 

 

 ではなくて、世界の英語変種の中でも、標準的なアメリカ英語、または標準的なイギリス英語という2つのreference accents (Melchers & Shaw, 2013)のどちらかを(イギリスかアメリカかはここでは議論しません)、みんなで学び、みんな同じ方向を目指し、でも目標語には達していない、いわゆる「中間言語」の部分でコミュニケーションをとることが、ジャパニーズイングリッシュ/ジャングリッシュや、チャイニーズイングリッシュ/チングリッシュの目的ではないでしょうか?

 少なくとも、近隣の中国人や韓国人の英語学習者は、このことをよくわかっているように見えます。

 

 「中間言語(interlanguage)」の英語というのは、悪い言葉を使うとノンネイティブの下手な英語、未完成な英語(私の英語を含む)なのですが、アメリカ人は非常に表現の仕方が上手いという印象があるので、内容は同じでも「発展途上」というポジティブな、人に勇気を与えてくれるような言い方をしてくれたわけです。

 このように、同じ所を目指してはいるが、まだ辿り着いていない途中段階で、なんとか頑張ってコミュニケーションをとりましょう、ということです。

 だから、実用的なジャパニーズイングリッシュが目指す所は、標準的なアメリカ英語、またはイギリス英語であるべきではないでしょうか?

 にもかかわらず、「日本人はコテコテのカタカナ英語で良い」ような考え方もある程度根付いているのは、アメリカ英語やイギリス英語の発音が教えられるようになると、困る立場の人たちもいるからなのです。ここを理解して解決しなければ、先には進めないでしょう。

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参考文献

Melchers, G., & Shaw, P. (2013). World Englishes. Routledge.