トピック一覧
● World Englishesとジャパニーズイングリッシュ
● World Englishesは、発音指導が苦手な教員の口実になる?教員の辛い立場
● 正しい発音を導入すると、英語教員の発音が間違ってることがバレて困る。教員も生徒もハッピーになるには?
● [ə]と[ʌ]の区別を英語ネイティブはできない。[ə]と[ɪ]も区別できない:発音記号の本当の読み方
● 「発音記号」から「発音リスペリング (pronunciation respelling)」へ
● 世界の英語変種に対応するために、逆に1つの方言の発音をしっかり習得しよう!
作者:野北明嗣
まず簡単に、Kachru’s Three Circles of Englishの話をします。
① The Inner Circle : イギリス英語、アメリカ英語、カナダ英語、オーストラリア英語など、いわゆる元々のネイティブスピーカーの英語。
② The Outer Circle : インド英語、ナイジェリア英語、シンガポール英語など、かつてイギリスの植民地で、国内で公用語としての地位がある英語。リンガフランカ(母語が異なる人同士で話す時の共通語)として使われることが多い。
③ The Expanding Circle : 日本、中国、ロシア、オランダなど、英語が歴史的に関わっておらず、公用語としても使われていない地域の人たちの英語。国外の人とコミュニケーションをとるために英語が使われる。
近年、World Englishes(世界の英語変種)の概念を習ってきた大学生や大学院生が、時々「日本人は、ジャパニーズイングリッシュ(というか、コテコテのカタカナ英語)でいいのだ。」とか、「インド英語やシンガポール英語を堂々としゃべってる人たちがいるのだから、日本人はジャパニーズイングリッシュ(というか、コテコテのカタカナ英語)を堂々としゃべればいい。」と言っているのを見かけます。下手したら「日本人にだけしか通じないジャパニーズイングリッシュでもいい。」という話さえ聞いたことがあります。
しかしここで上の3つのcirclesを見ていただければわかるとおり、ジャパニーズイングリッシュと、インド英語やシンガポール英語などを、一緒にしてしまうのはどうでしょうか?
例えば、Inner Circleの英語の中でも、例えば”本気”のスコットランド英語は、カナダ人にはあまり理解できないようです。しかし、スコットランド英語は、スコットランドというコミュニティー内で、コミュニケーションの道具として機能しているので、仮に他のコミュニティーの人たちに通じなかったとしても、充分機能を果たしているわけです。Outer Circleの英語も同様で、シンガポール英語はそのコミュニティー内でコミュニケーションツールとして機能しているわけです。
一方「日本人にしか通じない英語」というのはどうでしょうか?日本人同士でコミュニケーションを取る場合には、日本語を使えばいいのだから(英語を練習するという目的のために、日本人同士で英語をしゃべるのは別として)、「日本人にしか通じない英語」は特に必要ではないと言っていいでしょう。また、日本人にしか通じない英語、ジャパニーズイングリッシュ、コテコテのカタカナ英語の母語話者は存在しないことも、忘れてはいけません。
日本で、例えば「日本語母語話者とアイヌ語母語話者が会話をする時は、そのままではコミュニケーションができないので、英語で会話をする」というような習慣があったら、英語はつまり日本のリンガフランカとして機能することになります。日本語話者とアイヌ語話者の話す英語が、仮に外国の人たちには通じないものだったとしても、外国の人は使わない日本特有の語彙や文法や発音を使っていたとしても、日本というコミュニティーの中で機能しているので、それは良いわけです。そのような状況なら、日本の英語はOuter Circleの英語になるでしょう。
となると、日本人が英語を学ぶ目的は、やはり日本人以外の人とコミュニケーションを取るためでしょう。これは韓国人やメキシコ人やフランス人が英語を学ぶのも同じです。となると、やはり日本人にしか通じない英語ではまずいことになります。World Englishesで忘れてはいけないのは、やはり標準的なアメリカ英語か、標準的なイギリス英語が軸になっているということです(Melchers & Shaw, 2013)。ここを忘れている人が多い気がします。だから、World Englishesは決して「何でもあり」ということではありません。
英語が世界の公用語としての地位を確立しているため、もはやネイティブスピーカーよりも、ノンネイティブスピーカーの人口の方が多いと言われます。つまり、ストレートな言い方をすれば下手な人がたくさんいるということです。World Englishesの根本は、「下手な人の方が上手い人より多いのだから、下手でも恥ずかしがらなくていいんだよ。」ということだと僕は理解しています。
僕は、英語と中国語を勉強していますが、両者の違いの一つとして気づいたのは、英語ネイティブはノンネイティブの英語に慣れているため、下手な英語に対して寛大な人が多いということです。一方、中国語ネイティブは、そこまでノンネイティブの中国語に慣れていないためか、下手な中国語に対して寛大でない人も少なくないです。こちらが相手の言うことを理解できなかったり、こちらの下手な中国語がわけわからなかったりすると、イライラする人が、英語ネイティブより多い印象です。めげそうになります。。。(笑) もちろん寛大な中国人もたくさんいますが。(英語ネイティブでももちろん寛大な人ばかりではないので、めげないように頑張りましょう!)ただ、確かにコミュニケーションがスムーズに進まないとイライラしてしまうのも自然なことではあります。だから僕たちも、外国人の日本語に対しては、寛大になってあげましょう!
日本人は特にミスを恐れると言いますが、僕も日本人なのでその典型です。ミスったらかっこ悪いと思ってしまいます。でも英語に関しては、ミスを気にすることはないよと、英語ネイティブは言ってくれています。
ちなみに、英語以外のもの、例えばテニスでも、日本人はとにかくミスらないテニスを教えられるという話を聞いたことがあります。だからもっと思い切ったプレーをした方が良いと。僕もその典型ですが、ミスらないように安全なプレーをしても、技術がなくて結局ミスしてしまったり、弱気なところを相手に攻められたり、良いことがありません。だったらいっそのこと思い切ってプレーした方が、それで負けてもすがすがしいということはあります。英語もスポーツと同じということでしょう。まあ、口で言うのは簡単なんですが。。。メンタルを鍛える必要があります。
しかし、下手なままでいいのかというと実はそうでもなく、やはり「できるだけ上手い方が便利」というのも事実です。例えば英語で論文を書く場合、僕を含むノンネイティブは、しかるべきネイティブスピーカーにチェックしてもらうようにという指示があります。そして大体標準的なアメリカ英語で書くなどの指示があります。やはりノンネイティブの英語の論文をそのまま出すわけにはいかないというのが現実です。僕も英語の論文を書く時、毎回ネイティブにチェックしてもらって、色々直されます。以前は知り合いに見てもらっていましたが、最近は有料のそういうサービスを利用しています。しかしもし、少なくとも特定の分野に関する論文を書くのに必要な英語だけならネイティブレベルなら、知り合いの手を煩わせることも、有料のサービスを利用する必要もなくなるわけです。そこを目指したいと思います。
まとめると、World Englishesの概念は
● 決して「何でもあり」とか「日本人にしか通じないコテコテのカタカナ英語で良い」ということではない。コミュニティー内で公用語として機能しているOuter Circleの英語と、日本人の英語は同じではない。
● 日本人以外の人とコミュニケーションを取るために、標準的なアメリカ英語、又は標準的なイギリス英語を学ぶ。(少なくとも中国人はこれを理解してる傾向があるようです。)多くの日本人がイメージするWorld Englishesとは逆説的だが、実はこれが一番の近道だと思う。
● 世界にはネイティブよりノンネイティブの方が多い、つまり下手な人の方が多いのだから、下手でも気にすることはない(と口で言うのは簡単だが、実際は気にしてしまう。。。)。英語ネイティブは、ノンネイティブの変な英語に慣れているから寛大な人が多い。
● とは言っても、やはりできるだけ上手い方が便利。
次は、World Englishesは、発音指導が苦手な英語教員の口実になる?教員の辛い立場
参考文献
Melchers, G., & Shaw, P. (2013). World Englishes. Routledge.