中国人に有声閉鎖音のprevoicingを習得させるにはどうしたらいいか?
まず、prevoicingとは何かというと、「バ」つまり[ba]という音の[b]の破裂の前に、声帯が振動している状態です。文章でごちゃごちゃ説明するより、実際に音を聞いてみれば、百聞は一見にしかず、いや百見は一聞にしかずでしょう。
↓prevoicing有りの「バ」 いわゆる有声音
↓prevoicing無しの「バ」 いわゆる無気音
中国人は、この前者のprevoicing、つまり「バ」が始まる前のためのような部分、これが苦手なようです。(上海語にはこれがあるので、上海人には簡単なようですが。)王凰翔 (2017). 中国語母語話者による日本語語頭破裂音の生成 : 子音の調音位置・地域差とVOTの関係. 日本言語学会大会予稿集 第155回より。
実際に、カナダの大学院にいた時の私の指導教官は、山东という所出身の中国人(日本語は話せない)でしたが、このprevoicingができないようでしたし、レモンスクールの代表である董炎林(野北美月)も、このprevoicingができません。しかも代表は上海に2年ほど住んでいて、上海語のリスニング力に関しては、聞いて大分理解できるそうですが、上海語の発音はあまりできないので、prevoicingもできないようです。
しかしレモンスクールの代表、副代表共に、いわゆる臨界期をはるかに過ぎた中年でも、外国語のネイティブライクな発音は可能だということを自ら証明するプロジェクトのために、日本人である副代表は、中国人の代表の日本語の発音をネイティブライクにするために、毎日特訓中です。
しかしこのprevoicingの指導に大変苦戦中です!!でもこのprevoicingの習得なくして、日本語ネイティブにはなれないと踏んでいます。基本的に代表の日本語に関して、清音濁音の違いに私が聞き間違えることはありませんが、例えば代表が「漁業」と発音すると、「業」が無気音になっていてprevoicingが無いため、「漁」と「業」がスムーズにつながらず、若干「ぎょっぎょう」のように聞こえてしまうのです。これでも通じるかもしれませんが、「ネイティブライク」の条件は満たしていません。
確かに日本人の濁音の発音では、VOT (voice onset time)がプラスの値になる、つまり濁音だけど有声音ではなく無声音になっていることもあるというデータもあります。実際私自身の発音でも、そういう発音になっていることがあるという自覚があります。例えば「でも」と言った時の「で」が、VOTがプラスの値になっていて無声音になっているのは、こういう感じです。
だからと言って、やはりデフォルトはprevoicing有りなので、これができなくていいということではないと思います。もちろん日本人は無意識にやっていますが、これを意識的にできるようになると、外国語の発音習得では非常に強いと思います。
しかし代表はどうしても、[mmmba]のように、prevoicingの部分が鼻音になってしまいます。音声学の教科書を持ち出して原理を説明しても、だめでした。こうなっちゃいます。
自分の非母語の説明なら、自分も最初はできなくて、それをどうやって克服したかを説明すればいいので、そういう点ではむしろ簡単です。でも自分の母語は、やはり最初は発音できなかったはずですが、物心ついた頃には既にできるようになっていたため、どうやって克服したかを覚えていません。そういう点では母語の発音指導は難しいですね。
しかし、ここで「中国人にprevoicingは指導できません。発音のセンスがある人達が、勝手に身につけてくれるだけです。」で終わってしまっては、
「よもやよもやだ。発音に特化したスクールとして不甲斐なし。穴があったら入りたい!」”What an ugly mess. If other pronunciation teachers were here to see what I let happen, I’d be ashamed!!” (読み方をふると What (wŭt) ạn ŭglỵ mĕss. Ĭf other (ŭ-thur) prọnŭncịā́tiọn tēachẹrs were (wur) hēre (又は hĭr) tọ sēe what (wŭt) Ī lĕt hăppẹn, Ī’d bē ạshāmed!!) と言うしかありません。(鬼滅の刃、煉獄さんのセリフより。→ 煉獄杏寿郎の名セリフを英語と中国語で)
とにかく、なんとしても、中国人にprēvoicingを身につけさせる方法を見つけ出すしかありませんね。見つけ出したらまた記事をアップします。
習得させるコツを期待していた方、今日は「苦戦中」ということで。。。
しかし次回は、突破口が見えてきた話をします。→中国人に有声閉鎖音のprevoicingを習得させるにはどうしたらいいか?