効率的なローマ字の提案 1子音=1文字式ローマ字
日本語のローマ字には、ヘボン式、訓令式などがありますが、
人間の言語が完璧ではないので、完璧なローマ字も存在しません(後述します)。
何を優先し、何に妥協するかでつづりが変わります。
今回、1子音(分節音)=1文字の対応を優先したローマ字を提案しました。
目的は、「文字数を減らす、入力を楽にする」ことです。

外来語音(一部拗音)

外来語音系

濁音(今までのヘボン式と同じ)

※赤い部分が今回の目玉です!
※黒いセルは、音が日本語に存在しない。
ローマ字の目的
●ローマ字は、日本語のかなを、ラテン文字に転写すること
※決して、英語話者に日本語を正しく発音してもらうためのものではありません。
※そもそも、英語にない音や音の組み合わせは、どんなにうまくつづっても、彼らは練習しないかぎり発音できないのですから。日本人が英語のTやTHに苦労するのと同じです。
このつづりのポイント
●極力1つの母音や子音(つまり分節音)につき1文字
※日本語の子音音素目録には諸説があるが、定義によっては1音素=1文字とも考えられます。
shとかchなどのように、2文字で1音を表す二重音字(digraphs)は、
基本的には、音素の数に対して文字が足りなくなった時の苦肉の策と考えていいでしょう。
日本語のローマ字では、A〜Zの26文字の中で、q, xなどまだ使ってない文字があるので、
shやchやtsのような二重音字を使う必要はないでしょう。
※同じことは英語にも言えます。効率だけを考えるならsh→x, ch→q, th→cなどに変える手があるでしょう。
二重音字の弱点は、文字数が増えることなので、その弱点を克服します。
反面、文字の種類が少なくてすむというメリットもあります。
二重音字を使えば26文字だけで26以上の音を表すことができます。
どちらも取ることはできないので、長所と短所が表裏一体ですね。
上記の通り、「し」「ち」「つ」はxi, qi, cuとつづることにします。
これによって今まで使われていなかったx, q, cを活用でき、
sh, ch, tsといった2文字を1文字に減らせます。文字数を減らすことは大きいでしょう、
※お気付きの方もいるかもしれませんが、中国語のピン音の綴りを参考にしてます。
●「しゃ」「ちゃ」「じゃ」は子音+母音、「きゃ」等は子音+子音+母音
拙著「kyaなどのkyは子音連続」 で書きましたが、
「きゃ(kya)」「みゃ(mya)」などのkyやmyは子音連続と考えるのが合理的と議論しました。
つまり子音が2つあるので、ky, myのように文字も2文字、ということです。
(kyaなどのyがオンセットなのかニュークリアスなのかは、まだ結論は出てません。)
一方、シャ行、チャ行、ジャ行は、子音+母音と考えるのが合理的と議論しました。
なので、シャ、チャ、ジャは、訓令式のsya, tya, zyaではなく、
子音1つ=1文字ルールをあてはめ、xa, qa, jaとします。
●イ段で硬口蓋化したものと音韻的な(発音の)対立があるかどうか
サ行、ザ行、タ行、ダ行では、
シ vs. スィ、ジ vs. ズィ、チ vs. ティ vs. ツィ、ジ vs. ディ vs. ズィの対立(発音の区別)があります。
これらをどうつづるかが鍵になります。
ヘボン式はおそらくshi vs. si
訓令式は藤家, 龍岡 (1999)式なら si vs. s’i
「ファ」「ツェ」などの外来語音は、
ヘボン式ならfa, tse、藤家, 龍岡 (1999)の訓令式なら hwa, twe
どちらも文字数が増えたり補助記号を付ける必要があります。
また「ファ」=hwaはともかく、「ツェ」=tweは、
[w]の発音が全くないのにtweとつづることに違和感があり、覚えにくいかもしれません。
しかし、1子音1文字方式なら、
シ vs. スィ、ジ vs. ズィ、チ vs. ティ vs. ツィ、ジ vs. ディ vs. ズィは
xi vs. si, ji vs. zi, qi vs. ti vs. zi, ji vs. di vs. zi
「ファ」「ツェ」は fa, ce とつづりが単純になります。
●「フ」は hu とつづる理由
ハ行は、「ファフィフェフォ」と「ハヒヘホ」の音韻的な対立(発音の区別)はありますが、
fuとhuの音韻的な対立(発音の区別)は日本語にはないので、
わざわざウ段だけfuに変える必要はない気がします。
音声的には確かにハッキリ発音すれば[ɸu]なので、音声面だけを見ればfuの方が良いかもしれませんが、
[ɸu]と[hu]の区別が日本語にはないので、書き分ける必要性はあまりなく、
ハ行とファ行なら、ハ行の方がメインなので、ハ行のつづりhuを優先させます。
どうしても「フ」をfuにしないといけないという強い理由が見つからないのですよね。
もう一つ加えると、福岡空港の略がFUKで、まるで英語のf*ckみたいなので、
福岡県民からするとそれが嫌だから、HUKにしたい、という話も聞いたことがあります。(笑)
●「デュ」「フュ」「ニェ」「ヒェ」などyが入る外来語音
これらは順に、dyu, fyu, nye, hye とyを入れてつづれば良いでしょう。
●「ン」「ッ」の綴り方は一律 n’ c’
ここは結構重要です。
これまでの「使ってない文字をフル活用する」「1分節音/音素=1文字」に倣うなら、
「ん」「っ」つまり撥音と促音も、1文字で表したいものです。
実はローマ字ではまだLとVを使っていません。
しかしどうしても、「ん」「っ」と L, V がイメージ的に結びつきません!
Lは流音、Vはわたり音に近い摩擦音というイメージですからね。
そこでまず「ん」は一律 n’ とアポストロフィーを付けることにしてはどうでしょう?
現在は、「ん」は通常はn、母音とヤ行の前だけn’、場合によっては両唇音の前はm。
例、ほん hon、たんす tansu、だんご dango、はんい han’i、こんや kon’ya、
場合により とんぼ tombo、はんぱ hampa、さんま samma
(または、はんい han-i、こんや kon-ya、)
しかしこれだとルールが煩雑です。音声学を知ってる人ならすぐ対応できますが、
そうでない人には、なかなか使い勝手が悪いでしょう。
そこで「ん」は極力1通りのつづりに対応させた方が、learnabilityが高いでしょう。
1子音=1文字(補助記号も付けない)とは矛盾してしまうのですが、
「ん」は1子音でも1拍分カウントする=1音節(1モーラではなく!)ので、
補助記号は許容範囲ではないかと思います。
日本語を学習中の英語話者にとっては、honのnとナベ nabeのnは同じと感じるかもしれませんが、
日本人には明らかに「ん」と「ナ行子音」は別物なので、
同じつづりにするのは違和感があるでしょう。
例、ほん hon’、たんす tan’su、だんご dan’go、はんい han’i、こんや kon’ya、
とんぼ ton’bo、はんぱ han’pa、さんま san’ma
「っ」も同様です。
今のローマ字では、「っ」専用の文字はなく、次の子音を繰り返しますが、
例、はっぱ happa、あっち acchi、
日本人の頭では「っ」は全て同じ音(無音?)、つまり同じ音素であることや、
ローマ字はかなの転写が本来の目的であることを考えると、
「っ」は、「つ」cuの応用を使うのがいいでしょう。
すると、n’ = 「ん」だけで1拍カウントするのと同じで、
c’ = 「っ」だけで1拍カウントすると考えることができるでしょう。
「っ」は次の音に関わらず一律 c’ が良いのではないでしょうか?
例、はっぱ hac’pa、あっち ac’qi、あっさり ac’sari、
ストラッチャテッラ sutorac’qatec’ra
「ん」は一律n’、「っ」は一律c’ とするのが
「かなからラテン文字への転写」には合っているでしょう。
●「じ」「ぢ」、「ず」「づ」の文字の区別はあきらめる?
「じかん」「はなぢ」、「すず」「つづく」のように、 書く時には「じ」「ぢ」、「ず」「づ」の文字を書き分けます。
いわゆる四つ仮名ですね。方言によっては摩擦音と破擦音の音韻的な(発音の)区別があるそうですが、
標準語には発音の区別はないので、ローマ字で書きあわらさなくても支障はないでしょう。
ただ、ローマ字は発音を表すものではなく、「かなからラテン文字への転写」と考えると、
本当は「じ」「ぢ」、「ず」「づ」も書き表すのが理想です。
ですが、残念ながらこれらを区別する文字がもう残っていないのです。26文字しかありませんからね。
でも例えば、すずきさんに対するつづきさんのように、「づ」を書き表したい人もいるかもしれません。
そういう場合は苦肉の策で「ぢ」はdji、「づ」はdzuと二重音字を使いましょうか?
そうすると、今度は1子音=1文字に反してしまうので、なかなかうまくいかない所です。
●完璧な文字は無い!
文字だけでなく、人間語言語は、コンピューターで計算して作られたわけではなく、
人間が感覚で使っているうちに生み出されたものです。
しかも数百年、数千年という歴史があり、他の言語からの影響もあります。
必ずどこかで矛盾が生じます。
元々矛盾したものを、完璧に書き表すことはできません。
そもそも、ひらがなが既に矛盾しているのです。
「カ行」の濁音は「ガ行」、つまり点々をつけると無声子音が有声音になる、
と思いきや、ハ行子音は[h]、濁音のバ行は[b]と全く違う子音になります。
それに半濁音、半分濁るとは何なのか?パ行子音は半分有声音なのか?というと、
そんなことはありません。
これは、奈良時代はハ行子音が[p]、後に両唇摩擦音の[ɸ]つまりファ行子音に弱化し、
そこからさらに唇の動きが弱くなって[h]になったことに由来します。
ですが、そういうことを考える人や文句を言う人はあまりおらず、
普通に半濁音を使っていますからね。文字とはそういうものでしょう。
ローマ字にも同じことが言えるでしょう。
英語の発音の先生や音声学系の人(私もこのカテゴリー)は、
訓令式ローマ字(タチツテトはta ti tu te to)を推す傾向があります。
意外に思うかもしれませんが。
確かに「五十音表に忠実」という点では、訓令式が理にかなっています。
しかし、現実に言語学者じゃない人たちに広く受け入れられてるのは、
ヘボン式ローマ字(タチツテト ta chi tsu te to)の方です。
これはこれで、言語学者が受け入れるべきことかもしれませんね。
※ヘボン式ローマ字=英語のつづり、という考え方はやめて下さい。そう考えている限り英語の発音は永遠に良くなりませんし、フォニックスは永遠に習得できません。
今回僕が提案したローマ字案も、お気付きの通り矛盾はあります。完璧ではありません。
結局、何を優先するか、何をあきらめるか、によります。
また、既にヘボン式ローマ字が浸透してるので、今更これを主張しようとは思いません。
ただ、これによって何かを感じてもらえれば、幸いです。
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