アメリカ英語が37音という言語学的根拠 全て通じる英語の37音表についてAIの回答

自分のサイトをチェックするために、「全て通じる英語の37音表」と検索してみたところ、AI (Agent i)の当教材に関する回答がでてきました。その中でAIがやや誤解して解釈している部分(というか、私がサイトに明記していなかったのでAIが調べようがなかった部分)があったので、誤解を招かないように、ここで元日本音韻論学会理事の1人として、言語学的に説明します。

全て通じる英語の37音表(ミナ表)は、英語ネイティブの音声学者が書いた学術論文や学会発表、私が直接ネイティブの音声学者から聞いたこと、私自身が学会発表したり論文で発表した自分自身の研究を、初心者にもわかるように説明しようとしている教材です

 

AI (Agent i)の回答:

37音という数え方の位置づけ

  • 英語の音の数え方は流派により異なり、IPAでは40〜45音前後とすることも多いです。(hatuonpls.com)
  • レモンスクールでは、アメリカ英語の実用的な音を13母音+24子音の37音に整理したと説明しています。(lemonschool.tokyo)
  • そのため「37音表」は国際的な標準名称ではなく、特定スクールの教育用コンセプトと考えるのが妥当です。(lemonschool.tokyo)

 

AIはこのように回答していますが、

この「37音表」は国際的な標準名称ではなく、特定スクールの教育用コンセプトと考えるのが妥当という部分は、あたかも「独自の方法」→「下手したら、根拠のないトンデモ理論」という誤解を招きかねないので、しっかり言語学的に説明します。

 

● 13母音+24子音=37音と合計を出す人が少ないだけで、

13母音、24子音はわりとよく見る数字!

 まず24子音は、あまり議論の余地はないでしょう。AIが出したhatuonpls.com(英語の発音教室PLSさん)のサイトでは、子音の数が24と明記されています。

 子音のでややcŏntrọvérsiạlな(意見が分かれる)のは、[ʍ]と[w]を区別して25子音にするかどうかでしょう。これはどういうことかというと、例えば、

疑問詞whyアルファベット名のY疑問詞のwhich魔女のwitch

タイヤのwheelwe willの省略形we’ll

これらの発音を区別するか、どちらも普通の[w]の発音にして同じ発音にするか、ということです。区別するなら25子音区別しないなら24子音となります。

37音表では、[ʍ]と[w]を区別しない24子音体系を採用しています。なぜならこれらを区別しないネイティブはたくさんいるからです。不必要なものを覚えてあえて難しくする必要はないからです。

ただし、why [ʍai]を「ホワイ」、wheel [ʍiːl]を「ホイール」のようにあからさまにカタカナ発音をしない限りは、[ʍ]と[w]の区別は日本人にそれほど難しくはない上に、つづりが<w>なら音は[w]、つづりが<wh>なら音は[ʍ]のように、つづりと音の対応が単純で間違えにくいので、区別してもそれほど問題はないでしょう。実際、全て通じる英語の37音表では3人のネイティブの発音を使っていますが、そのうち1人(アメリカ人 Plumさん)は[ʍ]と[w]の発音を区別しています。

 

● 13母音は、北米の音声学や、発音指導ではよく見る数字

アメリカ英語が13母音なのは、北米の音声学だとありふれているし、日本でも国際英語発音協会の英語発音指導士認定コースでは、13母音を指導するように勧められました。なので、むしろなぜ日本の音声学や、発音記号の一覧で13母音が定着していないのか、不思議です。

先ほどの子音と同様、cŏntrọvérsiạlな(意見が分かれる)のは、[ɔː]と[ɑː]を区別して14母音にするかどうかでしょう。どういうことかというと、例えば

catchの過去形caught と ベッドのcot、歩くwalk と 中華鍋のwok、

襟のcollar と callする人のcaller

これらの発音を区別するか、どちらも普通の[ɑː]の発音にして同じ発音にするか、ということです。区別するなら14母音区別しないなら13母音となります。

それを踏まえた上で、[ɔː]と[ɑː]を両方入れている14母音の論文は例えばHillenbrand, J., Getty, L., Clark, M., & Wheeler, K. (1995). Acoustic characteristics of American English Vowels. The Journal of the Acoustical Society of America, 97(5), 3099-3111.、しかし[ɔː]と[ɑː]を区別しないネイティブがたくさんいる話なら、社会言語学の権威であるLabov, W., Ash, S., & Boberg, C. (2008). The atlas of North American English: Phonetics, phonology and sound change. Walter de Gruyter.や、Boberg, C. (2009). The emergence of a new phoneme: Foreign (a) in Canadian English. Language Variation and Change21(3), 355-380.あたりが王道です。

実は私は最初アイオワ州の人たちから英語の発音を習ったので、[ɔː]と[ɑː]を区別する14母音を習いました。しかし、彼らもネイティブでも[ɔː]と[ɑː]の聞き分けは難しいと言っていました。その後、カナダで修士、博士を取りましたが、そこでは[ɔː]と[ɑː]を区別しないどころか、そういう区別があることすら知らないネイティブばかりだったので、私はこの区別をやめました。

両方試した結果、日本人には以下の理由から、絶対に[ɔː]と[ɑː]を区別しないことを勧めます。

理由1:[ɔː]と[ɑː]を区別しようとすると、もっと10倍大事な[ɔː]と[ou]の区別や、[ɑː]と[ʌ]の区別が疎かになる。例えばcaughtとcoatの区別やsawとsoの区別、そしてbodyとbuddyの区別、gotとgutのuの区別など。

理由2:hot dogの2つのoの前者は[ɑː]で[ɔː]だが、つづりはどちらもo。同様にoffのoは[ɔː]でonのoは[ɑː]。一応区別するルールがあることはあるが、多くの人はcaughtとcotの区別の仕方を覚えるのにてこずっているので、とてもhot dogのoの区別までは気が回らない。イメージでは、この区別をある程度すんなり身につけられる日本人は10人に1人以下。

理由3:[ɔː]はよくau, awのつづりに対応するが、au, awはフォニックスの中でも日本人がもっとも苦戦する綴りの1つなので(拙著Nogita, A. (2020). L2 letter-sound correspondence: Mapping between English vowel spellings and sounds by Japanese ESL learners. Phonological Studies, 23-53.参照)できるだけシンプルにしたい。

でもなんと言っても、理論をごちゃごちゃ述べるより、区別する14母音と区別しない13母音を実際に使ってみると、議論の余地がないほど[ɔː]と[ɑː]を区別しない13母音体系1択だとわかるでしょう!よほど特定の方言にこだわってる人以外は、区別する必要ありません。

 

もう一つ、13母音又は14母音に比べて、音節主音の[r]である[ɚː]、つまりbirdのirなどの発音を入れて、14 or 15母音にすべきだと、日本音声学会などで言われたことがあります。確かに音韻論者らしく、北米英語(rhotic dialects)の音節核目録としては、それは最もな意見です。私も本当はそうしたいところです。実際そうしている論文もあります。(例、Yoshida, M. (2014). The Vowels of American English. University of California: Irvine.)

ですが、こと日本人への発音指導となると、Rが苦もなく発音できる人には問題ないのですが、Rが苦手な人には[ɚː]が1つ加わるだけで難易度が跳ね上がるのです。Rが発音できない人は、[ɚː]の聞き取りもできない傾向がある気がします。なので、当教材の母音編では、母音をできるだけストレスなく習得してもらうために、少なくとも全ての母音の聞き分けストレスなくできることを体験してもらうために、音節主音のRである[ɚː]は当教材では子音編に入れてます

 

● 42 soundsならよく聞くかもしれません。

実は私が最初にアイオワ州の先生から習ったのは、42 soundsでした。これは例えばJolly Phonicsでも使われているので、知っている人は知っているでしょう。

ただし、42 soundsはフォニックスの基礎なので、つづりをベースにしているため、発音としてはダブっているものがあります。こちらのJolly Phonicsのサイト言えば、

x = k + s

qu = k + w

ue = y + oo

ar = o + r

or = oa + r

これで5個消えるので42-5=37個になります。※大事なのは、ここには前述の[ɔː]と[ɑː]の区別が含まれていない、両者を区別していないということです。

ただし、このJolly Phonicsのサイトには[ʒ]が含まれていません。visionなどのsiの音です。私がアイオワ州の先生から習った42 soundsにも含まれていませんでした。

そこでレモンスクールの全て通じる英語の37音表には、[ʒ]を加えています。これで37+1=38になってしまうのですが、全て通じる英語の37音表ではJolly Phonicsのerとrを区別していません。同じ音として扱っています。これには賛否両論あるでしょう。片方は音節主音の子音(syllabic)、片方は非音節主音(nonsyllabic)ですからね。しかしネイティブは両者を同じ音と考えているようなので、覚えることは一つでも減らして学習者の負担を減らしたいので、38-1=37としました

 

以上のように、標準的なアメリカ英語の13母音、24子音という数は、

実はあまり議論の余地のないありふれた数字です。

ただ13+24=37と足し算をしている人が少ないので、

37音という数が、AIには聞きなれない数字に聞こえたのかもしれません。

強いて言えば、er [ɚː]を加えて38音にしろ、という反論くらいでしょう。でもなぜか[ʒ]を入れない42 soundsよりは、はるかに良いのではないでしょうか?

 

さらなるAIの反論はこちらです:

一般的な英語の音声体系との関係

  • 英語の音素数は理論や方言により異なりますが、アメリカ英語では
    • 母音・二重母音+子音を合わせて40前後とする見方が多く、教材ごとに整理の仕方が違います。(east-education.jp)
  • 「37音表」は、その中から学習上の分かりやすさを優先して37個にまとめた、特定スクールのオリジナル設計です。(lemonschool.tokyo)

 

確かに、実は「音素がいくつあるか」というのは、結構考え方によって変わります。ここが音韻論者達の大きな議論の一つです。例えば日本語の「しゃ」の子音を/sja/のように「子音+子音+母音」と扱うのか、それとも/ʃ/という子音音素を加えて/ʃa/と「子音+母音」と扱うのかで、子音の数は変わってきてしまいます。どっちが正しいかは解釈次第となります。(個人的には様々な理由から/ʃa/を推しますが、それはまた別な機会に。)

AIは英語の音を、「40前後」と言っていますが、確かに前述の42 soundsがその例の一つですが、42音が音声としては重複していることは、先ほど述べた通りです。

 

さらに、AIが挙げているeast-education.jp(Qulmeeさん)のサイトには、26個の母音が挙げられています。実は、日本の英語発音教材では、26個を挙げるものが一番メジャーです。大抵26個です。実に、レモンスクールの倍です。ちなみにQulmeeさんのサイトの表記は、北米の音声学者がよく使う表記ですね。こだわりを感じます。

しかし、26個はものすごく重複は多いので、見ていきましょう

★ 子音の j や r が付いているものは、単純に元々ある母音にjやrを付けただけなので、全部ダブってます。以下の8個は消しましょう。

ɪɹ = ɪ + ɹ

ɛɹ = ɛ + ɹ

ʊɹ = ʊ + ɹ

ɑɹ = ɑ + ɹ

ɔɹ = oʊ + ɹ ←誤解されやすいので動画をご覧ください。

aɪɹ = aɪ + ɹ

aʊɹ + aʊ + ɹ

ju = j + u

★ 弱母音と強母音はネイティブにとっては全く同じ母音。強勢があるかないかだけ。全く区別する必要ありません。以下の3つは消しましょう。

i = iː

ə = ʌ

ɚ = ɝ

 

★ 前述の通り、よほど特定の方言にこだわらないかぎり、/ɔː/と/ɑː/を区別する必要はないので、/ɔː/は消しましょう。Qulmeeのサイトでは/ɔ/と/ɑ/となっており、これは北米の音声学でよく使われる表記ですが、内容は全く/ɔː/と/ɑː/と同じです。

/ɔ/ = /ɑ/

つまり、26-8-3-1=14、ここまで減りました。最後の1つは、前述の音節主音のR、Qulmeeさんの記号でいうɝ、birdのirの音を、母音に入れるか、子音に入れるかの問題ですが、レモンスクール全て通じる英語の37音表では前述の理由で子音に入れているので、13母音ということになります。

26個も覚えるのは大変なので、このように日本の英語教育でも26母音表はやめて、北米のように13母音表にすべきではないでしょうか?

 

さらに言えば、37音に絞る理由は、拙著Nogita, A. (2022). Suggestion for Standardization of the English Phoneme Inventory Table for L2 English Learners and its Classroom Usage. Phonological Studies 25, pp. 39-50.でも説明しています。

 

●既に誤解されてるものを変えるため、オリジナルの用語は一部使ってます。

★重音と軽音

現在の音声学でもかなりの割合の人が、日本語のピッチアクセント核と、英語などの強勢を混同しているのが現状です。音声学者、音韻論者達がそうなのだから、音声学音韻論をやっていない人たちはなおさらでしょう。

しかし、金田一春彦 1965「高さのアクセントはアクセントにあらず」『言語研究』48.1−12.や、Hyman, Larry M. 2009. How (not) to do phonological typology: the case of pitch-accent. Language sciences 31(2–3).213–238.など、一部のビッグネーム達が、日本語のピッチアクセントと強勢は全くの別物だと訴えています。なぜならピッチアクセントは音程強勢はリズムだからです。音程とリズムは、音楽でも別次元のものですよね。発音も同じです。

しかし、ビッグネーム達が訴えても、結局「強勢」を理解されないのなら、いっそのこと強勢という言葉は使わず、新たな用語を使おうと考えました。

強勢のある音節を「重音」、強勢のない音節を「軽音」と、全く別な名前をつけました。

元々は、中国語の「軽声」という用語から取ったアイディアです。中国人の音声学者達にも相談しましたが、「軽声」の「声」は「声調」のことですが、英語に「声調」は無いので、「軽音」にしました。

今の所、中国語の例も出して重音と軽音を説明する方法は、非常にうまくいっている気がします。

 

★「介音」

「介音」(英語ではmedial)は、中国語音声学、ベトナム語音声学では普通に使われていますが、私が知ってる限りでは、日本語音声学や英語音声学では使われていません。

しかし、これを日本語や英語に使わない手はないと思います。英語の子音連続、子音クラスターは、多くの日本人にあまり正しく理解されていないので、それならば子音連続、子音クラスターという言葉は使わず、「介音」という用語を導入することには大いに価値があるでしょう。

そして日本語にも英語と同様のものがあることを説明するためにも、日本語にも導入すべきでしょう。

※介音が、オンセットに属するか、ライムに属するかは、ここでは問題にしていません。ものによってオンセット寄り、ライム寄りだったりしますが、オンセットとライムにはさまれてるものを一律介音と呼ぶことにします。

 

以上のように、13母音+24子音=37音というのは、決して奇をてらったオリジナルの数字ではなく、少なくとも13母音、24子音という数字は非常にありふれています。それを足した37音という数字をあまり見ないだけ、ということです。

よかったら、「英和辞典の発音記号が多すぎ」という動画もご覧ください。

 

この内容をAIに読み取ってもらいたいものですね。

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